パフォーマンステストで押さえるべき重要指標5選と改善のベストプラクティス
ブラックフライデーの開始と同時に、何千人ものユーザーが割引を求めてあなたのECサイトに殺到します。その結果、アクセスの集中により決済処理が遅れ、ユーザーが購入を完了できずに離脱してしまうことがあるでしょう。
こうした事態を未然に防ぐために欠かせないのが、パフォーマンステストです。ただし、こうした障害の原因としてよくあるのは「テストをしていない」ことではなく、「膨大なデータを集めているにもかかわらず、本当に見るべき指標に注目できていない」点にあります。
この記事では、システムの安定性とユーザー体験に大きな影響を与える、5つの重要なパフォーマンステスト指標をご紹介します。それぞれの指標の意味や読み取り方、改善するための方法、そして活用できるツールについて、具体的に解説していきます。
最後までお読みいただければ、アクセスの急増にも耐えられる安定したシステムを構築するための明確なテスト戦略が見えてくるはずです。
目次
パフォーマンステストで押さえるべき5つの重要指標
期間限定セールや新製品のローンチなど、高トラフィック時にも安定して動作するアプリケーションを実現するには、以下の指標を押さえておくことが不可欠です。
レスポンスタイム(応答時間)
レスポンスタイムとは、ユーザーが送信したリクエストに対して、システムが処理を行い、結果を返すまでにかかる時間のことです。例えば、本来5秒で表示されるはずのページが50秒もかかってしまえば、ユーザーはすぐに離脱してしまうでしょう。
Googleの調査では、モバイルサイトの読み込みに3秒以上かかると、約53%のユーザーが離脱するという結果が出ています。さらに、2009年にAmazonは「ページの読み込み時間が0.1秒遅くなるごとに売上が1%減少する」と報告しています。Walmartでも、ページ表示速度を1秒短縮することでコンバージョン率が2%向上したというデータがあります。
このように、わずかな遅延であってもビジネス成果に大きく影響を与えることから、レスポンスタイムの最適化は極めて重要であると言えるでしょう。
レスポンスタイムを改善する方法:
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キャッシュを活用する
頻繁にアクセスされるデータは、RedisやMemcachedのようなインメモリキャッシュに保存することで、毎回データベースにアクセスする必要がなくなり、応答時間の短縮につながります。 -
データベースクエリの最適化
不要な結合を避けたり、最適なインデックスを作成することで、クエリの実行効率が大きく向上します。 -
リクエストの分散(ロードバランシング)
複数のサーバーにリクエストを分散させることで、特定のサーバーへの集中を防ぎ、処理の遅延を回避できます。
レスポンスタイムの測定に役立つツール:
- JMeter:実際のユーザー行動パターンをシミュレーション
- New Relic:リアルタイムでのパフォーマンス監視
- Grafana + Prometheus:ボトルネックの可視化と分析に活用可能
スループットとピークパフォーマンス
あなたのシステムは、大量のアクセスや注文の急増に耐えられるでしょうか?それを確認するのがピークパフォーマンステストです。
スループットとは、単位時間あたりにシステムが処理できるデータ量(例:1秒あたりのトランザクション数)を示します。これが低ければ、注文の急増に対応できず、遅延やクラッシュの原因になります。
過去の事例では:
- 2018年のAmazon Prime Dayに、Amazonのサイトが数時間にわたってダウンや不具合を起こし、7,200万~9,900万ドルもの損失が出たと推定されています。
- 2019年の感謝祭では、Costcoのサイトがアクセス急増で約16.5時間オフラインに。最大1,100万ドルの損失につながったとされています。
こうした大規模サイトでなくても、以下の対策でスループットは改善できます。
改善のポイント:
- AWSやGCPのオートスケーリングによる水平スケーリング
- APIをまとめて呼び出すなど、リクエストのバッチ化
- データベースクエリの処理速度の向上
- ピーク時の数か月前からの負荷テストと、段階的に負荷を上げて限界を探るストレステストを実施
役立つツール:
- JMeter、Datadog:負荷テストデータの可視化と解析
- Datadog、New Relic:リアルタイムのスループット監視
エラーレート(失敗率)
ページが表示されていたとしても、APIの呼び出しや内部処理が頻繁に失敗していては、ユーザーにとって「使える」アプリとは言えません。見た目上は正常に動作しているように見えても、裏側でエラーが多発していれば、ユーザー体験は大きく損なわれてしまいます。
エラーレートとは、APIの失敗、サーバーの過負荷、データベースのタイムアウトなどによって発生するリクエストの失敗率を示す指標です。
「失敗したリクエスト数 ÷ 総リクエスト数 × 100」で算出され、数値が低いほどシステムの安定性が高いと判断できます。
過去には、eBayで決済処理のバグにより、ユーザーが購入を完了できない不具合が発生したことがあります。その際、大きな収益損失とユーザーの信頼低下を招きました。このような事例は、ユーザー体験を守るうえで、エラーの発生を早期に検知・対処することの重要性を物語っています。
エラーレートを低下させるための改善ポイント:
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ログの監視と分析
継続的にログを確認することで、繰り返し発生しているエラーや改善すべき箇所を把握できます。 -
APIのリトライ処理を導入する
一時的な失敗をリトライで吸収することで、ユーザーへの影響を最小限に抑えられます。 -
サーキットブレーカーの導入(例:Hystrix)
障害の連鎖を防ぎ、システム全体のダウンを回避するための仕組みとして有効です。
測定に役立つツール:
- JMeter:意図的にエラーを発生させるテストを行い、障害発生時のシステムの動作を検証できます
- Sentry:リアルタイムでエラーを検知・追跡し、即座にデバッグ対応が可能です
同時接続ユーザー数
同時に大量のユーザーがアクセスしてきた際、あなたのシステムは耐えられるでしょうか?
同時接続ユーザー数とは、ある瞬間にアプリやWebサイトを利用しているユーザーの数を指します。この数を過小に見積もってしまうと、アクセスの集中によってシステムが処理しきれず、クラッシュや大幅な遅延を引き起こしてしまいます。
例えば、2015年のブラックフライデーでは、ジョン・ルイス(John Lewis)のECサイトが過去最高のアクセスを記録し、それに対応できずにサイトがダウン。多くのユーザーが買い物できない状況となり、売上向上の機会を逃す結果となりました。
高負荷の同時接続ユーザーに対応するための改善ポイント:
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データベース接続の最適化(コネクションプーリング)
データベースへの同時接続を効率よく管理することで、リソースの枯渇や遅延を防ぎます。 -
CDN(Contents Delivery Network)の活用
地理的に分散したサーバーを通じて、ユーザーに最も近い場所からデータを配信することで、読み込み時間の短縮とサーバー負荷の分散が可能になります。 -
シミュレートによる定期的な負荷テストの実施
想定を上回る同時アクセスに備え、スパイク(急増)を再現した負荷テストを定期的に実施しましょう。 -
スケーラブルなクラウド環境の活用
トラフィックの急増に応じて、自動的にリソース(サーバーやメモリなど)を拡張できるクラウドインフラ(例:AWS、GCPなど)を導入することで、大量アクセスにも柔軟に対応できます。
測定に役立つツール:
- JMeter、LoadRunner、Datadog:想定される同時ユーザー数を模擬し、システムのスケーラビリティを検証できます
レイテンシ(遅延)
レイテンシとは、ユーザーのリクエストがサーバーに届き、応答が戻ってくるまでにかかる時間のことを指します。リアルタイム性が求められるアプリケーションでは、この時間が非常に重要です。
例えば、株取引アプリなどでは、1秒の遅れが数千ドルの損失につながることもあります。このようなケースでは、わずかな遅延が命取りになるため、ミリ秒単位でのレスポンス性能が求められます。
レイテンシを抑えるための改善ポイント:
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CDNの活用によるネットワーク経路の最適化
コンテンツを地理的に分散して配信することで、リクエストの転送距離を短縮し、応答速度を向上させます。 -
クライアントサイドのスクリプト最適化(JavaScriptなど)
不要な処理の削減や非同期化などにより、ブラウザ側の実行負荷を軽減し、全体のレスポンスを速くできます。 -
画像・CSS・JavaScriptなどの圧縮
転送データ量を小さくすることで、読み込み時間を短縮し、初回表示を高速化します。
測定に役立つツール:
- WebPageTest:ページの読み込み時間や各リソースの処理時間を可視化
- Lighthouse:フロントエンドのパフォーマンスやアクセシビリティの改善点をレポート形式で確認可能
パフォーマンステストでよくある失敗パターンとその回避策
主要なパフォーマンス指標を理解していても、実際のテスト運用では思わぬ落とし穴に陥ることがあります。ここでは、パフォーマンステストでよく見られる失敗例と、その回避方法を紹介します。
よくある失敗と回避策:
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実際の利用環境を考慮せずにテストしている
理想的なネットワーク環境や高性能な端末だけを前提にテストしてしまうと、実際のユーザー環境での問題を見落とす可能性があります。 そのため、Google LighthouseやWebPageTestなどを活用し、さまざまなネットワーク速度やデバイス条件を再現したテストを実施しましょう。 -
エラーレートを軽視している
ページが表示されているだけでは不十分です。APIの呼び出しや操作が失敗していないかもあわせて確認する必要があります。 パフォーマンステストでは、応答速度だけでなくリクエストの成功率にも注目しましょう。 -
スケーラビリティの検証を行っていない
現時点では問題なく動作していても、数ヶ月後にトラフィックが10倍に増えたときに耐えられるかどうかは別問題です。 将来的な負荷を見越したストレステストやピーク時シナリオを組み込むことが重要です。 -
テスト結果の記録や可視化が不十分
結果が記録されていない、あるいは表やグラフで整理されていないと、後から原因を追跡したり、他チームと共有するのが困難になります。 継続的に結果を蓄積し、比較・分析できるようにしましょう。 -
問題を発見しても対応につながっていない
せっかくテストでボトルネックや異常が見つかっても、報告が曖昧だったり、担当者に伝わっていなかったりすれば、改善は進みません。 テストレポートは簡潔かつ具体的にまとめ、関係者全員が理解・行動できるように共有しましょう。
パフォーマンス指標が、より良いテストを導く
パフォーマンステストの目的は、単に最高速度を追い求めることではありません。多くのユーザーが同時に利用する状況でも、快適で信頼性の高い操作体験を維持できるシステムを実現することにあります。
そのためには、以下の5つの指標を適切に測定・活用することが重要です。
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レスポンスタイム
リクエストに対する応答速度を把握し、ユーザーの待ち時間を最小限に抑える。 -
スループットとピークパフォーマンス
大量のデータやリクエストを処理する能力を確認し、トラフィックの急増にも対応できる体制を整える。 -
エラーレート
リクエストの失敗率を監視し、信頼性の低下やビジネス機会の損失を未然に防ぐ。 -
同時接続ユーザー数
実際の利用環境を想定したテストで、同時アクセス時のパフォーマンスを検証する。 -
レイテンシ
リアルタイム性が求められる場面での応答の速さを測定し、操作や処理の遅延を感じさせない快適なユーザー体験を実現する。
これらの指標を継続的に追跡・分析し、実際の運用状況に合わせて改善を重ねていくことで、高速かつ安定性・拡張性に優れたシステムを構築することが可能になります。
参考文献:
- Amazon Prime Day Website Issue
- Web Performance case Studies
- Website Performance Conversion Rates
- John Lewis Website Crashes Amid Black Friday Rush
- Mobile Site Load Time Statistics
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Original article: https://blog.magicpod.com/performance-testing-metrics-matter
