“すべてをテスト”から卒業!データ分析でリスクの高い機能を特定しよう
「テスト項目が多すぎて時間が足りず、結局バグを見逃してしまう…」そんな経験はありませんか?
アプリケーションの各機能には、それぞれ重要性や障害が起きたときの影響度が異なります。頻繁に変更が入る部分もあれば、ビジネスの根幹を支える機能もあります。だからこそ、すべてを網羅的にテストするより、本当に重要な部分に的を絞ることが大切です。
そこで役立つのが、分析データを活用したリスクベースドテストです。
今回はデータを使って優先度を見極め、テストの重点ポイントを特定する方法を紹介します。まずは、なぜリスクベースドテストが重要なのかを、簡単な例を交えて考えてみましょう。
なぜリスクベースドテストが重要なのか
例えば、あるECサイトには15個の機能があり、テスト担当をすべて均等に割り当てているとします。一見すると公平で合理的に思えますが、実際にはあまり効率的とは言えません。
詳しく調べてみると、その15の機能のうち、特に重要なのは以下の2つだけだと分かりました。
- 負荷がかかると落ちやすい「購入確認ページ」
- 最も利用頻度が高い「ユーザーログイン機能」
それにも関わらず、ほとんど使われないページと同じように扱い、同じリソースを割いていいのでしょうか?
リスクベースドテストを取り入れることで、限られたリソースを有効に使えます。すべてを同じようにテストするのではなく、障害が起きやすく、影響が大きい部分を重点的にテストすることで、時間も人材もより効果的に投入できます。その結果、本当に重要な部分のテストカバレッジを高められるのです。
では実際に、どの部分がリスクが高いのかをデータでどう見極め、どこにテストを集中させるべきなのか、その具体的な方法を見ていきましょう。
データから高リスクなテスト領域を見つけ出す
本当にリスクが高い部分はどこなのか。
その答えをデータから導き出しましょう。
利用状況などのデータを集めて分析することで、どこに問題が潜んでいるかが見えてきます。こうした分析を通じて、テストの重点を置くべき領域を明確にできます。
では、実際にどんなデータを参考にすればいいのか、代表的な例を見てみましょう。
過去の不具合レポート
過去の不具合レポートを活用すると、特定のモジュールで繰り返し発生するエラーや、リリース後に起きやすいデグレ、特定のコード変更に起因するバグなどのパターンを見つけることができます。
質の高いレポートは、問題のあったコンポーネントをはじめ、発生環境、根本原因、影響を受けるバージョンなどの情報が含まれており、どこにリスクが集中しているかを可視化する「リスクのヒートマップ」を作るのに役立ちます。
こうしたデータを最大限に活かすために、以下のポイントに注目しましょう。
- 不具合の深刻度:単なる軽微なUIの問題なのか、機能が完全に止まるような重大なバグなのか
- モジュールごとの傾向:特定のモジュール(例:決済)に問題が集中していないか
- 発生頻度:どれくらいの頻度で同じ問題が起きているか
- 修正にかかる時間:解決までにいつも時間がかかる部分はどこか
JiraやTestRailなどのツールを使えば、生のバグデータを貴重な知見に変えることができます。例えば、Jiraのカスタムダッシュボードを使えば、コンポーネントや優先度、ステータスでバグを絞り込み、リリースをまたいで繰り返し発生する不具合を追跡できます。
TestRailでは、テストケースを機能ごとにタグ付けしてJiraの不具合レポートとリンクできます。これにより、失敗したテストケースやテスト実行の傾向を分析し、常にパフォーマンスが低いモジュールを特定できます。
本番環境でのインシデント
モニタリングツールを使うと、通常のテストでは見つけにくいソフトウェアの挙動を把握できます。
例えば、システムログやクラッシュレポート、ダウンタイムのアラートを分析すれば、具体的なエラーや例外、パフォーマンスのボトルネック、問題を引き起こした操作や環境を特定できます。
CRM(Customer Relationship Management)のレポート機能を例に考えてみましょう。New Relicなどのツールでシステムの稼働状況を監視すれば、ユーザーが大きなレポートをエクスポートするときにDB接続エラーが頻発する、といった傾向をつかめます。この情報をもとに、QAチームはレポート機能に特化したストレステストを設計し、将来的な障害を未然に防ぐことができます。
また、Datadogを使えば、インシデントレポートを追跡し、最近のデプロイと関連付けて分析できます。これにより、どのコード変更が新たな問題を引き起こしたかを素早く特定し、より的を絞ったテストを実施できます。
ユーザー行動分析
ユーザーが実際にどの機能を使っているのかを把握し、その利用状況に合わせてテストを計画しましょう。機能が50個あっても、実際によく使われているのは5つ程度かもしれません。その5つをしっかりテストするほうが、ずっと効果的です。
Google Analyticsを使えば、どのページや操作フローが最も利用されているのかを特定できます。利用頻度の低いページに均等に時間をかけるより、ユーザーがよく使う部分の探索的テストや機能テストを優先しましょう。
また、FullStoryなどを使ってユーザーセッションを再現させ、実際の利用経路やユーザーが躓きやすいポイントを把握するのも有効です。
パフォーマンスログ
負荷がかかったときのパフォーマンス問題は、機能のバグと同じくらい深刻です。そのため、パフォーマンステストのデータは品質保証に欠かせません。
テスト結果を分析する際は、パフォーマンスログを含め、以下のような主要な指標に注目しましょう。
- ピーク時の応答時間
- ロードテスト中のエラー率
- CPUやメモリ、データベースといったシステムリソースの使用状況
こうした指標を確認することで、システムが高負荷下でどのように動作するかを把握できます。
また、パフォーマンステストツールを活用すると、さらに詳しい分析が可能です。
例えば、JMeterを使えば、50、100、500といった同時接続ユーザーをシミュレーションし、スループットやレイテンシを測定してAPIのボトルネックを特定できます。GrafanaとPrometheusを組み合わせれば、応答時間、メモリ使用量、エラー率などのメトリクスをダッシュボード上で可視化できます。これにより、コード変更後のパフォーマンス劣化をアラートで素早く検知したり、時間をかけて進行する性能劣化を早期に発見したりできます。また、パフォーマンスログを機能テストの結果と関連付けることで、「どの部分が」「いつ」「どんな条件で」問題を引き起こすのかを、より正確に特定できます。
コードの複雑性を分析する
コードが複雑になるほど、分岐やロジックが増えてバグが発生しやすくなります。だからこそ、コードの複雑性を分析しておくことで、実際に問題が起きる前にリスクの高い箇所を特定できます。
特に注目したい指標は以下の通りです。
- サイクロマティック複雑度:分岐が多く、理解や保守が難しい部分
- テストカバレッジの低さ:テストが十分に網羅できていない箇所
- 最近かつ頻繁に変更されているコード:変更が多いほどバグの混入リスクが高い
こうした指標をモニタリングすることで、テストを優先的に実施すべき領域を絞り込めます。
SonarQubeやCodeSceneなどのツールを活用すれば、問題が顕在化する前に保守が難しくなりやすいコードを検出できます。SonarQubeではリポジトリをスキャンして、コードの複雑さや重複を分析し、「Code Smells」「Bug」「Vulnerability」などの観点から改善が必要な部分を特定できます。
CodeSceneを使うと、バグが発生しやすい「ホットスポット」を視覚的に把握できます。さらに「Code Health」という指標でコードの保守性を評価し、時間とともにその変化を追跡できます。これにより、技術的負債を早期に発見し、リファクタリングの優先順位を決めたり、より効果的なテスト戦略を立てたりすることが可能になります。
データが教えてくれること
ソフトウェアやアプリケーションをテストしていると、すべてを網羅的にテストするのは非効率だと実感するものです。大切なのは「全部をテストすること」ではなく、「本当にテストすべき部分を見極めること」です。テスト時にデータ分析を活用することで、QAチームは不具合が起きやすい箇所や失敗しやすいポイントを特定し、重点的にテストを実施できます。限られた労力でより多くのバグを見つけ、ユーザーにとって重要な体験の品質を高めることが可能になります。
次に大量のテストケースを前にしたときは、ぜひこう問いかけてみてください。
「このデータは何を教えてくれるだろう?」
その答えを見つけたら、データを活用してテストの方向性を定め、不具合の検出率を上げ、効率的に高品質なソフトウェアを届けていきましょう。
参考文献:
- Implement Risk-Based Testing Strategies for the Best Test Coverage
- Analytics in Testing
- Predictive Analytics in Software Testing
- How to Analyze Data from Session Replays
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Original article: https://blog.magicpod.com/stop-testing-everything-analytics-identify-high-risk-areas