なぜコニカミノルタはアジャイルSaaS開発の内製化を進めたのか。挑戦を支えるテスト自動化の役割とは

コニカミノルタ株式会社

ブラウザテスト

コニカミノルタ株式会社様に、MagicPod選定の決め手や導入時から現在までの活用状況について、MagicPod代表の伊藤がお話を伺いました。


コニカミノルタ株式会社

「新しい価値の創造」を経営理念とし、デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業、インダストリー事業、画像ソリューション事業を柱とし、創業以来150年に亘り磨きあげてきた画像や色を核としたイメージングの技術力を基盤に、強みである画像IoTを軸とした「計測・検査・診断」領域の成長を拡大させています。その新規事業・DX推進の一環として、オンラインマニュアルサービス「COCOMITE」を展開しています。



POINT

  • アジャイル開発への移行後、テスト工数増大とリリース短縮が課題に
  • 低コストかつQA担当者のみで運用可能なUIを重視しMagicPodを選定
  • リグレッションテスト62%を自動化、CI連携し開発環境で定期実行
  • 工数削減(11→6h)と品質担保。QAへの信頼が開発の心理的安全性向上へ
  • MagicPod導入後、年間99.99%の稼働率を維持し、安定した品質レベルを確保
  • 大企業のSaaS開発内製化で、テスト自動化が効率化と体制維持に貢献

左から ・伊藤 望 MagicPod CEO ・内藤 靖文さん コニカミノルタ COCOMITE カスタマーサクセスマネージャー ・山中 智雄さん コニカミノルタ COCOMITE 開発責任者 ・木村 弘さん 新日本システック COCOMITE テストリーダー ・菅原 優聖さん コニカミノルタ COCOMITE サービス品質保証担当

左から
・伊藤 望 MagicPod CEO
・内藤 靖文さん コニカミノルタ COCOMITE カスタマーサクセスマネージャー
・山中 智雄さん コニカミノルタ COCOMITE 開発責任者
・木村 弘さん 新日本システック COCOMITE テストリーダー
・菅原 優聖さん コニカミノルタ COCOMITE サービス品質保証担当



山中さん(以下、山中):COCOMITEの開発責任者を担当しています。プロダクトの企画を立てたり、開発チームが進むべき方向を示したりしながら、開発全体を統括しています。企画の最初の段階から、リリース時の品質チェックまで、トータルで関わっています。

内藤さん(以下、内藤):私はMagicPod導入当時、スクラムマスターとして開発・テストの進行の効率化や最適化を担当していました。現在はカスタマーサクセスマネージャーとして、お客様がCOCOMITEをしっかり使いこなし、業務で成果を出せるように、課題を見つけるお手伝いから解決のサポートまで伴走することに力を入れています。

木村さん(以下、木村):テストリーダーとしてQA・テスト全般の設計を担当しています。アジャイルスクラムで開発を進める中で、MagicPodの導入検討から実際の運用、テスト自動化の推進まで行っています。

菅原さん(以下、菅原):私は品質保証部門に所属していまして、COCOMITEの専任担当としてMagicPodを使ったテストを含め、プロダクト全体の品質保証プロセスを見ています。

伊藤:COCOMITEについて、どのようなサービスか教えてください。

山中:2020年2月に提供を開始したオンラインマニュアルサービスです。マニュアルの作成から共有、管理までをこれ一つで完結できるのが特徴で、誰でも簡単に手順書などを作って、常に最新の情報をチームに届けられます。結果として作業のバラつきをなくしたり、特定の人しかできない業務を減らしたりする効果が期待できます。おかげさまで利用者も数万人規模になり、累積で200社以上、例えばファミリーマート様では全店舗でご活用いただいています。

伊藤:社内ベンチャーのような形で立ち上がった事業なのでしょうか?

山中:そうですね、それに近いと思います。もともと社内にあった「ビジネスイノベーションセンター」という新規事業創出部署から生まれて事業化されました。

伊藤:コピー機が主力事業であるコニカミノルタさんが、COCOMITEのようなSaaSビジネスに取り組まれる背景には、どのようなことがあるのでしょうか?

山中:コピー機事業は本体販売後のトナー供給など、継続的に収益を得る「リカーリングビジネス」が中心でした。しかし、近年デジタル化が進み紙への出力が減少傾向にある中で、新しいリカーリングビジネスの柱を育てるべく生まれたのがCOCOMITEです。

内藤:私と山中は元々、コピー機のハードウェア開発を担当していました。コピー機開発の場合はすでに市場や顧客ニーズが見えていますので、要件が固まっている状態で開発が進みます。一方、COCOMITEのような新しいSaaSサービスはゼロからイチを生み出す部分が大きく、お客様の生の声を直接聞きながら課題を解決するためにスピード感を持って開発を進める必要があります。「ダントツスピード」という事業部のスローガンにも表れているように、顧客価値の提供スピードを非常に重視しています。

山中:お客様に直接触れ合いながら、フィードバックを元にプロダクトを改善していく。この距離感と開発スピードは、コピー機を開発していた頃とは大きく異なる点です。



MagicPod導入の経緯

山中:開発体制は現在5名で、アジャイルで進めています。COCOMITEをリリースした後、半年くらいはウォーターフォールでした。その後、ベンダーチェンジのタイミングなどもあり、「スクラムでやっていこう」という方針に転換し、2021年の1月頃にアジャイルスクラム体制へと移行しました。

それに伴いリリースサイクルを短縮しようと試みまして、当初は1カ月に1回のリリースでしたが、それでは「お客様の要望にスピーディーに応えられない」「価値提供までの期間が長すぎる」という課題がありました。そこで2022年頃からリリースサイクルをどんどん短縮し、最終的に「開発2週間+テスト1週間」という3週間のサイクルになりました。

リリースサイクルの短縮は進んだものの、機能が増えるにつれてリグレッションテストの工数が大幅に増大しました。開発後に品質保証部へ引き継ぐプロセスもリードタイムを長くしており、スピードと品質担保の両立が困難な状況でした。

内藤:当時の課題としては、何か不具合があって対処するというより、テスト工数の増大が大きかったです。その問題が顕在化し、「削減しないとまずい」という議論が本格化したのが2回目のベンダーチェンジを行った2023年8月前後です。開発体制やメンバーの稼働時間を含めてプロセス全体を見直す機会があり、それをきっかけにテスト自動化の検討を本格化させました。



MagicPod導入の決め手

山中:実はテスト自動化の検討自体はそれ以前にも一度行っています。当時のベンダーから薦められた自動化ツールを試してみたのですが、コストが高すぎると感じて見送った経緯があります。

伊藤:皆さんテスト自動化ツール自体を使うのはMagicPodが初めてだったのでしょうか?

内藤:そうですね。4人とも本格的に使うのはMagicPodが初めてです。選定にあたってはMagicPodと以前試したツール、それからSeleniumとPlaywrightも候補に挙がりました。

重視したのは2点で、1つは「コスト」です。単にツールの導入費用ということだけでなく、投資対効果に見合うかという点を見ました。人を増やしてテスト負荷を軽減する選択肢もありましたが、人件費の半分程度のコストで自動化を回せるなら、そちらが良いと考えました。

2つ目は、開発メンバーのフォローなしで、QA・テスト担当者が主体的にテスト設計・運用ができることです。当時、COCOMITEは追加開発に注力したいフェーズで、開発メンバーが自動化のフォローに入ることで開発スピードが落ちることは避けたかったのです。テストはテストチームで完結できる体制を目指し、UIが分かりやすく専門的なプログラミング知識がなくても扱えるツールを探していました。

そのためコード実装が必要なツールは最初に除外し、ノーコードツールでコスト面を比較しました。その中で我々の使い方や求める要件にマッチしたMagicPodを選びました。

伊藤:ありがとうございます!実際に利用してみていかがでしたか?

木村:ノーコードで非常に作りやすかったです。少し触れば「こんなもんかな」と直感的に理解できましたので、そこはすごく使いやすいと感じました。ただ、我々のテストにはさまざまなパターンがありますので、それが本当にMagicPodでカバーできるのかが懸念点でした。トライアル期間に菅原や当時のメンバーと一緒に実際に使ってみて、「これならいけそうだ」という感触を得られたので導入を決めました。

内藤:問い合わせにも丁寧に対応いただき、ミーティングもした記憶があります。問題がすぐに解決するサポートの手厚さもポイントでしたが、決め手はプロダクトそのもの、特に「使いやすさ」が一番大きかったと思います。

菅原:私も、自分たちの想定通りにテストを実行できること、それをQA担当者自身の手で実現できることを確認できた点が大きかったです。



MagicPodの活用状況

木村:現在、COCOMITEの開発環境とステージング環境でMagicPodを利用しています。開発環境では毎日デイリーで夜間にテストを実行しており、ステージング環境ではリリース前のリグレッションテストとして、2週間に1回のリリースに合わせて実行しています。

現在のシナリオケース数としては68ケースで、リグレッションテスト全体の62%ほどを自動化できている状況です。ただ、自動化が難しいと思われるケースもいくつかあります。例えば、モバイルアプリテストの契約はしていないため対象外としていたり、クラウドでは対応が難しいものがあったりします。そういった自動化困難なテストを除いたものが現状のカバー率です。

伊藤:自動化によってどれくらいの効率化につながりましたか?

木村:特にリグレッションテストにかかる時間が大きく変わりまして、以前は手動で約11時間かかっていたものが、MagicPodでの自動テスト導入後は、全体で6時間程度に短縮できています。やはり、毎回繰り返し行う部分を自動化できたのが大きいです。

伊藤:テスト結果はどのように確認・共有されていますか?

木村:主にSlack通知で確認しています。あとは、ほぼ日課になっているので、朝一番の作業としてテスト結果を確認するようにしています。Slackチャンネルには開発メンバーも参加していて、開発メンバーがNG通知を見て、私が朝会で報告する前に先に修正してくれたことがありました。

伊藤:素晴らしいですね! 開発チーム全体で品質に対する意識が高い証だと思います。



ベンダー依存からの脱却と開発スピード向上を目指し内製化を推進

伊藤:テスト自動化と並行して開発体制の内製化も進められてきたと伺いました。コニカミノルタさんのような大企業が内製化を進めるのは、非常に先進的な取り組みだと感じます。

内藤:ありがとうございます。弊社の歴史や開発文化を考えると、SaaS開発の内製化は大きな挑戦でした。コニカミノルタは元々、複合機やカメラといったレガシーなハードウェア製品の開発が中心で、ウォーターフォール型の開発プロセスが深く根付いていました。今回、COCOMITEというSaaSプロダクトを開発するにあたり、従来の手法では不得手な部分も多く、試行錯誤の連続でした。

プロダクトが大規模化し、高付加価値・高機能化が求められる中で、新しい技術を迅速に取り入れながら開発を進める必要がありました。そこで、単に人を増やすのではなく「仕組み化」によってスケールしていく方針を立て、内製化を進めてきました。

伊藤:内製化は全社的な方針なのでしょうか?

内藤:いえ、企業全体というより、COCOMITE事業の戦略として判断しました。すべてを外部ベンダーに依存することのリスクを考慮し、内製化を推進することにしたのです。もちろん、現在も外部ベンダーさんとは協力体制にあり、完全に内製というわけではありませんが、あくまで我々の開発プロセスの中で一緒に動いていただいている、という形になっています。

山中:最初はベンダーさんに頼んでいましたが、やはり自社で技術力を持ち、主体的に開発を進めていくほうが良いだろうという話になり、社内公募や中途採用でメンバーを集め、内製化を進めてきました。

伊藤:大企業が外部委託から内製化に舵を切る動きは近年増えています。スピード感やリスク管理の観点からも重要なトレンドだと思います。コニカミノルタさんの取り組みは、まさにその流れを体現されていると感じます。アジャイルなSaaS開発への移行は簡単なことではなかったと思いますが、CI/CD環境の整備などはどのように進めてこられたのでしょうか?

山中:実はCOCOMITEの開発初期には、CI/CD環境がなかったことによる開発の失敗と呼べるような経験もしました。ベンダーさんがローカルで作ったものをリリース直前にマージしようとしたら動かず、リリースしてもバグが頻繁に見つかるという状態で、毎回リリースが怖かったと聞いています。

木村:当時は私も夜遅くまで手動でテストを行っていましたが、ステージング環境でOKだったものが本番では動かないといった苦労も経験しました。

山中:そういった失敗を経て、「つくったものはすぐに確認できる状態にしなければいけない」という反省からCI/CD環境をしっかり整える方針になりました。

伊藤:失敗を乗り越えてプロセスの改善を進められた経験は非常に貴重ですね。社内でも成功事例を共有し、「うちもやりたい」と思ってもらうことが組織全体に変革を広める大切な一歩になると思います。



最後に


内藤:単にツールを導入して自動化だけしても、開発プロセス全体の効率化や効果の最大化にはつながらないと思います。まずは、「何のために自動化するのか」という目的を明確にし、開発プロセス全体をどう改善していきたいのかを設計することが重要です。その上で戦略的にMagicPodのようなツールを検討し、選んでいただくのがいいと考えています。

また、MagicPodは投資対効果はもちろんのこと、それ以上に「安心材料」としての価値が大きいと感じています。テスト担当者の精神的な負担が軽減され、より前向きに開発に取り組めるようになる。その点も検討の際は考慮に入れていただければと思います。

山中:MagicPod導入後は品質レベルも向上し、年間で99.99%程度の稼働率を維持できています。これは自動化によって安定した品質レベルを担保できている証拠だと思います。効果面で言えば、人を新たに雇う場合と比較しても、MagicPod導入のほうがコストを安く抑えられています。投資対効果という点でもメリットを感じています。

木村:私が感じるMagicPodの魅力は、やはり「直感的にすぐ使える」という点です。ノーコードでテストを作成できるので、専門知識がなくてもQA・テスト担当者だけで運用を開始できます。また、実行回数に制限がないため、毎日気兼ねなくテストを回せるのも大きなメリットです。

導入して1年半ほどたちますが、今では毎朝MagicPodのテスト結果を確認することが、私のルーティーンになっています。このように日々の業務に組み込んで活用することで、その効果を最大限に引き出せるのではないでしょうか。

菅原:私も最初に触った時の「本当に直感的に使いやすいツールだ」という印象が強く残っています。それが最大のメリットであり、強みだと感じています。そして直感的に使えるだけでなく、我々がやりたいと考えていたテストのほとんどを実現できる機能を持っている点も非常に強力だと感じています。